妄想彼女偏屈列伝「想の者」
「ねえ、見てみて!これ西松屋で買ってきたの!!」
「ねえ、男の子か女の子かまだわからないから、黄色にしたんだよ!」
「ねえ、今週末はベビーカーを見に行かない?」
「ねえ、習い事はなにがいいかな?私は水泳がいいかなって」
「ねえ、聞いてる?名前はどうする?」
「ねえ、なんで無視するの?」
「ねえ、今お腹蹴ったよ!」
「ねえ、実家にあった絵本もってきたんだ!」
「ねえ、どうしていつも答えてくれないの?」
いつもこうだ。
なんでこんなことになったんだ。
「だから、君は妊娠してないんだよ」
「お金の管理は君に任せてるけどマタニティ用品を買うのだけはやめてくれよ」
「今、仕事で忙しいんだよ」
「だから、君は妊娠してないんだよ」
「もうよしてくれよ」
「もうやめてくれ」
「お腹が膨らんでないことぐらいわかるだろ!」
「おい、両親に言ってはないよな?」
「だから、君は妊娠してないんだよ!君がしているのは想像妊娠なんだよ!」
「なんでそんなこと言えるのよ!」
「産婦人科になんども行ったからだろ!」
「あいつら嘘言ってるのよ!」
「そんなわけないだろ!もうやめてくれよ!」
「今、蹴ったのよ!今!ねえ、触ってよ!」
「……」
「ねえ、動いたでしょ!ふくらんでるでしょ!」
「ありえないんだよ……それは……お前……」
「なにがいいたいの」
「最悪だな……」
「はあ?」
「俺への当てつけか?」
「そんなんじゃないから!さっきからその態度はなに?私はあなたの妄想の産物なのに私が想像で妊娠するのはいけないの?」
「なんだやっぱ、想像じゃないか。安心したよ。自分で想像妊娠って言ったし。論破だ。論破。論破。はは」
「おーい」
「起きた?」
「君、ゴミ捨て場で寝ちゃだめだよ」
「苦しそうにゴミ袋撫でてたけどどうしたの?」
「君、名前とか住所とか言える?」
「白石治ね……いやなんでもないよ」
「まあクスリとかはやってないみたいだし今回はこれでお終いだけどお酒には気をつけなよ」
警官は近くに止めてあった自転車にまたがって朝の町へ消えた。自分と同姓同名の男がゴミ捨て場に寝てたことが彼にどんな影響を及ぼすのかはわからないが、彼は今日も彼女の住むこの街を守る。