妄想彼女偏屈列伝「笑顔」
笑顔ってのは基本的にいいものだ。
笑顔を見るとこちらも笑顔になる。
でもその笑顔が理解できないとき、その笑顔からはなにか計り知れないものを人は感じる。
死体を前に笑っている人を見たらあなたは狂気を感じるはずだ。
最後から二度目の笑顔
小路を散歩していた。美山はいつもの服で。自分はジーンズにシャツ。風が吹くと気持ちいいそんな陽気。
そんな日だった。
「ツツジに視線の高さを合わせると昔を思い出すよ」
なんて言われたもんだから屈んで美山の後ろからツツジを見た。
「一緒に蜜を吸ったりしたな」
そう言った。でも美山が求めた答えは違った。
「それもそうだけどさ!ツツジの下に秘密基地作ったじゃん!忘れたの?」
「あったあった!今思い出した。」
「忘れてたんじゃん。ひっど~私は結構思い出すなのにな~」
「ごめんごめん」
ジーンズが引っ張られるその体勢をやめて再び進んだ。
「こっちの方は来たことがないんだけど、ここ抜けると何があんの?」
「池だよ」
「なるほど、あそことつながってんのね」
そういったときだった。道の横にカラスの死体が落ちていた。それは二人にとって不吉を暗示させるには十分なものだった。
しかし足早に通り過ぎるのも変なので彼女がそれに気づかないように注意を逸らそうと何の話をしようか思案した。
そのときだった。
「変な顔」
美山は笑いながら言った。
「なんだよそれ」
不意を突かれたからか僕も笑いながら言った。
「この角度から見るとね」
「そんな変な顔か?」
このあといつもの池に出たところで少し話して散歩は終わった。
これが最後に笑いあったときで最後から二度目の笑顔になった。
数日後、美山のお母さんから連絡があった。
大学病院へと急いだ。
病室に入ってすぐに美山のお母さんと目が合った。
「りょうちゃんありがとうね」
そう言われた。
病室ではカーテンが小さく揺らいでいる。風が吹くと気持ちいいそんな陽気。
そんな日だった。
美山が乗っていた車椅子は病室の隅にあって、それを見るとさらにこみ上げてくるものがある。美山はきっと俺が見舞いにくるようになる前から車椅子に乗ってあの頃を思い出していたんだ。もっと一緒に話したかった。きっと美山も話したかったはずだ。大学病院の庭だって全部回れてないじゃないか。
変な顔をグシャグシャにして泣いた。
「なんでそんな笑顔なんだよ。なんで死んじゃうんだよ。」
泣き顔の男の前で美山は穏やかな笑顔のまま眠る。
っていう
小説を読んで僕の彼女は
「お涙頂戴じゃん」
と言ってゲラゲラ笑っている。
正直引く。