妄想彼女偏屈列伝「違い」
違いが分からない男と僕は罵られる。僕はそれの何がいけないのかわからなかった。
彼女は何が変わったでしょうかと僕に聞く。僕は髪かなと言う。ネイルかな。BGMかな。シャンプーかな。どうやら全部違うらしい。違いが分からない男だけど違うことは分かるのが僕だ。それでいいと思っていた。
でも彼女は怒る。悲しそうに怒る。僕には考えを改める気なんてなかったがその表情を見ると違いを知りたくなる。
「だからどこが変わったのか教えて」
「tシャツの柄」
「なんだ些細なことじゃないか。気づかなかったよ」
「ねえ、それやめてよ」
「何をやめてって?」
「その気づかなかったってやつ。それを聞くだけで悲しくなる」
「どうして悲しくなるのかが分からない。君は僕に些細な違いがわかる男であってほしいみたいだけど、もっと大切なものがあると思うしそれだけで僕が駄目な人と決めつけないでくれないかな」
この言葉で彼女は泣いてしまった。
僕は慰めることをしなかった。僕の正しさがわかっていたから。その日はもう彼女と話さなかった。
そして次の日僕は彼女の正しさに気づけなかったことを知る。
彼女がいなかった。
彼女が消えたのだ。
あの悲しそうな表情はこのことに僕が気づかないと思ったからなのかもしれない。そんなわけないのに。そんな心配をさせてしまったのだ。僕も今から行くよ。今から消えて、君に会いに行くよ。君がいなくなった違いにちゃんと気づいたって伝えるよ。
これはある脳科学者が創ったアハ世界のお話。